六駅分のエトセトラ

家からオフィスまでの六駅で綴る何らかの文

青山テルマ

 

そばという食べ物がある。

 

箸で適量をつまんでめんつゆにつけ、ちょこんとわさびをのっけてツルッといただくあの麺だ。

 

あの「そば」が、少々ややこしいと思うのだ。 

 

そもそも「そば」とはすなわち「蕎麦」であり、穀物の一種だったはずである。

 

痩せた土地でも育ちやすい蕎麦は、山間部などの米が作りにくい地域で、貴重な主食として重宝されてきた穀物だ。

 

つまり、「そば」とは本来原料の穀物の名前である。

 

そば粉を麺状にする技術が今ほど確立されていなかった江戸時代には、こねて丸めた「蕎麦がき」が蕎麦料理の主流であり、「麺状にしたものは「蕎麦切り」と言って明確に区別していたそうである。

 

蕎麦切りは高級品で、庶民が口にできるものではなかったそうだ。

 

それが時代とともに、いつしか味で勝る蕎麦切りが蕎麦料理の主流になり、シンプルに「そば」と呼ばれるようになっていったのだろう。

 

つまり、今で言う「そば」を当たり前のように「そば」と呼べるということは、蕎麦を麺状にする技術を確立してくれた先人の努力の結果なのである。

 

職人さん、ありがとう。

 

翻って、現代。「そば」とつく食べ物は「そば」だけではない。

 

「中華そば」や「焼きそば」がそうだ。

 

いとも簡単に麺状にできる小麦粉を使って、ちょっとかんすいを入れて黄色くしただけの下らん麺類である。

 

あんなものを「そば」と呼んでいいのか? 

 

職人さんたちに失礼ではないのか?

 

しかし悲しいかな、今日のランチは中華そばにするつもりなのだ。

 

ラーメンではない。中華そばだ。

 

中華そばはおいしい。

 

ラーメンと中華そばの違いについては、また今度述べることとしよう。